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2024.08.16
8月3日イベントレポート 吉田美月喜さんが映画「カムイのうた」語る
1903年に生まれ19歳の若さで亡くなったアイヌ文化伝承者、知里幸恵(ちり・ゆきえ)さんをモデルにした映画『カムイのうた』は、2023年11月から北海道先行公開、今年1月から全国公開を開始し、これまで多くの皆様のご支援により、上映館は70以上となりました。
感謝の気持ちを込め、2024年8月3日に北海道東川町のせんとぴゅあⅠ講堂で映画の凱旋上映会と主演・北里テル役の吉田美月喜さんをお迎えしてのトークイベントを開催しました。
以下はトークイベントのオフィシャルレポートです。
映画の主人公・北里テル役を演じる事が決まった時の気持ちは?
吉田美月喜さん(以下「吉田」):私自身がアイヌ文化や歴史について知らないことが本当にたくさんあったので、まずはこの役が決まったらすごく学ばなければならないと覚悟して挑みました。決まった時に監督が「この作品は絶対に中途半端でやってほしくないし、このテルというという役をやってもらうにあたって、一緒に戦ってくれる人を探しています。一緒に戦ってくれますか?」と聞いてくださったその言葉の重みをすごく感じて。同時に監督を含めスタッフの皆さんのこの作品への覚悟をすごく感じたので、「私も頑張らせてください」とお返事させていただきました。
北里テルのモデルになった知里幸恵さんが亡くなった年齢が19歳、吉田さんも撮影当時19歳でしたが、同じ世代の壮絶な人生を演じるにあたって意識したポイントはどんなところでしたか?
吉田:ちょうど2年前、役が決まって撮影に入る前からいろいろな勉強をしました。アイヌ文化の事もそうですし、知里幸恵さんの事を学ぶため「知里幸恵 銀のしずく記念館」(北海道登別市)にも伺いました。東京で調べている時は、知里幸恵さんは19歳にしてユーカラを文字に遺すという凄いことを成し遂げた格好良い女性というイメージが強くありました。19歳の私と同じとは考えられないぐらい大人な女性だなと感じていたのですが、恋していた部分、映画の中ではヒサシにあたるのですが、実際に知里さんにもそういう方がいらっしゃったことや、手紙などを見ているうちに、ただ格好良い大人な女性というだけではなくて19歳らしさももっていたとわかり、そこで共感できる事が一つ繋がって、急に役が近くなったイメージがありました。
アイヌ文化やアイヌ民族についてかなり資料などで勉強されたと今伺いましたが、自分のものとして取り入れるのに苦労した点は?
吉田:時代物をする時は必ずそうだと思いますが、その時代に生きていたことはないので、あくまでも想像力と関係者の方への聞き取りしかできず、そこは苦労する部分ではありました。北里テルは知里幸恵さんをモデルとした役という事で、実在した方を演じるのは初めてだったので、どうやって近づけたら良いのかな、と常に考えていました。
映画を観ていて、ユーカラを歌うシーン、ムックリを演奏するシーンが印象的です。相当練習されたのでは?
吉田:そうですね、ユーカラは私より島田さんが歌われているシーンが多いですが、ミュージカルや歌で本当に素敵で偉大な島田さんでさえ、「これほど難しいものは歌ったことが無い」とおっしゃっていました。ムックリも同じですが、楽譜がないので、その時にいるその人の気持ちや自然の音とか動物の鳴き声を表現したり、ユーカラ自体も口伝えでその時のその人の気持ちも乗るので、正解が無いというのが一番難しい所でした。ユーカラ指導の先生に「ユーカラは巧く歌うのではなく、その物語を自分がどう感じたのかを音に乗せて良いんだよ」と言われ、そこでハッとさせられたというか、ただ正しく歌うだけじゃ違うと気付きました。ムックリは監督から「現場に行ってこの風景の中で何を感じたかを演奏してほしい」と言われていたので、自分がこう思った時にどういう音を出せるか、といういろんな音の種類を練習しました。昔からムックリに親しんでいる方の演奏を聴くと「この楽器はもっと無限の可能性があるな」とすごく痛感します。
確かに、悲しいシーンは悲しそうな音色に聞こえました。
(イベント会場の「東川町複合交流施設せんとぴゅあ」上空より)
北海道の景色が映し出される映像がとても美しいなと思います。吉田さんはこの映画の撮影で初めての北海道を訪れたと伺いました。北海道に来る前と来た後の印象は何か変わりましたか?
吉田:北海道は、綺麗なんだろうなとか、空気がおいしいとか、水がきれいとか、そういうイメージはありましたが、その想像を超えていました。撮影期間は夏と冬にあり、夏は1か月間ここ東川にずっといたのですが、時間の流れがすごくゆっくりに感じられて、「こんなに役作りに集中できる環境があるんだ」と思うくらい、周りの自然や音もそうですし、食べ物にもすごい“整えて”もらってる感じがありました。北海道や東川町にいると本当にスッと物事に集中できました。
ムックリの撮影は夏の忠別湖で撮影されたと伺っていますが、実際に行ってみていかがでしたか?
吉田:東京に住んでいるとやはり綺麗な自然の…というのが無く、普段はあまり湖とかに行くことは無い中で、久しぶりに本物の自然というものを見られたな、と感じました。この映画は特に背景に強い力を持っている部分があると思っています。東川町の雄大な景色や空や山にすごく助けられたなと、映像を見ていても実際に現場にいても感じます。
東川町に1か月ほど滞在されていたとのことですが、東川町にどんな印象をお持ちですか?
吉田:いつも言っているのですが、食べ物がすごくおいしいです。1か月間泊まっていた場所の近くにスーパーがあり、そこに毎日行って料理を作ったりしましたが、何といってもジャガイモがとてもおいしかった印象が残っています。あとは、大きな一本道の道路。東京だとあんなにまっすぐ長く道が続いていることはあまり無いので、その道を見たり歩いたりしていると私の中では異世界にいる気持ちになれました。
走っても走っても道で、景色が変わらない…みたいなこともありますよね。
吉田:すごく素敵でした。役の事を考えながら歩くにも良い道でしたし、歩いているとちょこちょこと個人でされているお店があったりして、そういうのを見つけるのも楽しかったり。
東川町は「写真の町」のほかにも「水の町」と言われているのですが、お水の方はいかがでしたか?
吉田:今日もずっと飲んでいましたが、おいしいですし、驚いたのは撮影期間中に肌があまり荒れなかったんです。噂では「北海道の水はいいから髪や肌に良い」と聞いたことはあったのですが、本当にそうだとは思わなくて。お水でこんなに違うものなんだなと感じました。
今度は冬についてお伺いします。撮影されていたのがちょうど最強寒波が来ていた2023年の1月ごろと伺っていますが、どうでしたか?
吉田:北海道の冬は初めてで、それまでは比較的暖かい時にいたので、想像を超える寒さでしたし、まさかそんな大寒波にぶつかってしまうなんて、と思いました。驚いたのが、撮影する時には和装して、小物とかも実際の昔のものを使わせていただいたりしたのですが、私は念のために藁の靴の下に防水の靴下を履いていたんです。でも、撮影が終わった後にその靴下が一切濡れていなくて。これだけの寒さや自然の中で生きてきた方の知恵というか、「こんなにも水が入らないものなんだ」と驚きました。今の最新の科学に頼ることも生活する上で大切ではあるのですが、昔はどうしていたのかとか、自然の中でどう暮らしていたのかという、本物を知ってみたいと思うきっかけになりました。
冬の映像では肌が赤かったり、まつげが凍っていますが、メイクは施さずに実際の寒さのせいでそうなったと伺っています。やはり撮影はかなり厳しいものでしたか?
吉田:チークのメイクをしなくても、指先とか鼻とか耳とかも赤くなるもので。耳は完全に空いている状態で撮っていたので、休憩に入った時に耳当てを衣装さんがつけてくれたりしたのですが、耳当てが触れるだけで痛くて「耳当ていらないです~」って言いながら、風が通るたびにヒリヒリするみたいな事がありましたね。改めて、この中で生きていた当時の人って凄いなと感じました。あとは、私はその撮影に参加できなかったのですが、私の撮影の次にアイヌの労働者の方のシーンを(北海道石狩市浜益の)海で撮影されていて、そこも壮絶な撮影だったと監督が仰っていました。
今回、島田歌穂さん、望月歩さん、加藤雅也さん、清水美砂さんと豪華俳優陣が顔をつらねてらっしゃいますが、一人ずつエピソード伺いす。まず伯母役の島田さんから。
吉田:島田さんが口の周りのイレズミを再現したメイクをされて現場にいると、一瞬でその場の空気が当時のアイヌの方の生活に感じられてくるというか、シュッと締まるんです。島田さんご自身はすごくフレンドリーで優しい方で、たとえば火の前で歌うシーンはどうしても喉とか目とかにきてしまうのですが、島田さんも本当に大変だと思うのに私の事を心配してくださったりとか、実際に家族のような感じで接してくださいました。
一三四(ヒサシ)役の望月さんは同世代でいらっしゃいますね。
吉田:そうですね、同世代です。望月さんとは東京でリハーサルの時に、2人のシーンは最初方の「なんでアイヌってだけで差別されなきゃならねぇんだ」と座りながら話すところと、メノコマキリ(小刀)を渡すところだけでお互い惹かれ合っているというのを表現しなければならならず、今の恋愛ドラマのようにわかりやすい恋愛表現はできないので、どうやって親密感を出せるか…と考えたのが印象に残っています。一番役について話し合ったのは望月さんかもしれないですね。
それが映像に表れていて、二人がお互いに想い合っているというのがすごく伝わりました。
そして、兼田教授役の加藤雅也さんですね。
吉田:現場で一番話したのは加藤さんです。今開催中の写真展(「カムイからの伝言」―加藤雅也写真展―/2024.7.17~8.12 現在は終了)にも、実際に撮影現場で撮った写真が展示されていますが、そうやって写真を撮りながらも、自分のシーンで自分の思ったことを行動にすぐに移せる方というイメージがあります。あとは、加藤さんとは「俳優とは」という事をすごく教えていただきました。加藤さんはすごくベテランの俳優さんですし、もちろん大変お忙しいのに、誰よりも台本へ書き込む量が多かったんです。撮影の時にも監督と「テルのこのシーンは、もっとこうした方が良いのでは」とお話しされており、自分の役ではなくテルの事を考えてくれていることにすごく驚きました。それも全部台本が埋まるくらい全ページ書かれているんです。「これはなんですか?」と聞いたら、「自分の役だけではなくて台本全体で思ったことを全部書いてる」っておっしゃって。「この作品全体がどうすれば魅力的になるかというのを、監督と同じくらい考えられてる方だな」というのを感じて、その姿勢はすごく学びになりました。
清水美砂さんは兼田教授の奥さん役で、テルをお世話してくれた東京のお母さん的な存在だと思いますが、清水さんとはいかがでしたか?
吉田:清水さんとは撮影でお会いしている日数がかなり少ないのですが、驚いたのは、私がこの映画で一番心がギューって痛くなったのが、テルが亡くなってしまった時に清水さんが泣いているシーンだったんです。一三四が来る時に一番悲しくなると予想していたのですが、まさかの「兼田教授の奥さん」という一番テルの中で関わっている時間が短い人の時で。なぜかと考えたときに、テルは差別されたり辛い想いをしても家族や周りの身近な人からは支えられていて、しかしこういう結果になってしまって…という中で、家族だけじゃなくて、兼田教授の奥さんという、もしかすると一番遠い場所にいる人でさえこんなに悲しんでくれると気付いたからだと思うんです。たくさんの人たちに私の想像以上に愛されていたことを清水さんの素晴らしい演技で感じて、それがきっと一番心に響いた部分だと思います。
テルを演じる前と演じた後で、気持ちというのは変わりましたか?
吉田:役が決まった時、同じ19歳で共感できる部分があったと言いましたが、それと同時に当時の若い方は精神年齢が高いなと思っています。それは生活の厳しさというか、今は科学が発展して頼れる部分がたくさんできましたが、当時は自分でやらなきゃいけないことが今より多かったと思います。そういう部分で精神年齢が高かったのかなと感じました。これは知里さんだけではなくて当時の方全体に対してそう感じている部分ですが、その中でも知里さんは自分の命を削ってまでこのアイヌの文化を遺すということを19歳でされています。私は正直、自分の命を懸けて何かをできるかというと、できることはまだ見つかっていないなというのが、21歳の正直な気持ちです。それだけ自分の大切なものを守り、伝えるという覚悟をこの役でテルにも知里幸恵さんにも教えてもらい、そういうものを強く守っていける人間でありたいという、人生としての目標がこの映画でできたのが違いかなと思います。
最後に、現在ここ「せんとぴゅあⅠ」のギャラリー2で開催中の写真展「カムイからの伝言」(2024.7.17~8.12 現在は終了)について。この写真展では、吉田さんと共に「カムイのうた」に出演された俳優である加藤雅也さんが、吉田さんをモデルに撮影した写真もたくさん展示されています。先ほども少しお話を伺えましたが、このモデルになったいきさつというのはどういったところだったんですか?
吉田:現場で加藤さんがカメラを使って色々撮ってらっしゃったので、「加藤さん写真も撮られるんですね」と話していた際に、「テルを演じている女優と、そうじゃない時の吉田美月喜を一緒に並べて写したら面白いんじゃないか」という提案をしてくださいまして。正直ホントとは思ってなかったのですが、東京に戻ってしばらくしたら加藤さんから連絡をくださり、「本当に撮ってくださるんだ!」とすごく嬉しかったです。
北里テルは精神的には強くて精神年齢も高いという印象はありますが、やはり風貌は幼い19歳というところが出ていますよね。ただ写真展の美月喜さんは大人っぽいなという印象を私は受けました。役者さんはどうしても役を引っ張ってしまうので、今は「かわいらしい」と見られがちなところをあえてああいう大人な雰囲気にしたという事で、意識したポイントはありますか?
吉田:加藤さんとどういう作品にするかを話し合った時に、加藤さんが「フランス映画っぽい雰囲気、合うと思うよ」と仰って。私が昭和のアイドル好きだと話していたら「じゃあちょっと昭和アイドル風に」というテーマができて。あとは撮っていく中で加藤さんから頂いた言葉「このセットの中でどう感じたかをそのままやっていいから」を意識して、細かい「どういう女の子なのか」というのは私の想像でモデルをしました。
この写真展では、どちらかというと素の吉田さんを見ることができると。
吉田:素よりちょっと大人っぽいかもしれないですが、ああいう雰囲気の作品を撮っていただいたことがなかったので、私自身も知らない自分を見つけられました。
かわいらしい一面もありながら、お話を伺っていても大人っぽい一面も垣間見えるので、それが写真に写っているんだなというのが伝わります。
まだ写真展をご覧になっていない方も、もちろんもうご覧になった方も、また違った気持ちでご覧いただけると思いますので、お時間の許す方は足をお運びいただきたいと思います。
本日は、映画「カムイのうた」主演・吉田美月喜さんにお越しいただきました。
吉田:ありがとうございました。本日はたくさんの皆様とお会いできて楽しかったです。